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技術情報

DLCとは

DLC : Diamond-Like Carbon

DLC(ディー・エル・シー) は、Diamond-Like Carbon(ダイヤモンド・ライク・カーボン)の略称で、ダイヤモンドとグラファイト(黒鉛)の両方の炭素-炭素結合を併せ持つ炭素を主成分とした物質で作られた薄膜の総称です。 ダイヤモンドとグラファイトの両方の結合をもつ構造をアモルファス構造(非晶質構造)と言い、ダイヤモンド結合をSP3(以下SP3と表記)、グラファイト結合をSP2(以下SP2と表記)と言います。

ダイヤモンドとDLCと黒鉛
(図1)ダイヤモンドとDLCと黒鉛(グラファイト)の構造の比較

一般的にはDLCという言葉が膜そのものも含めて言い表します。
SP3とSP2を併せ持つ炭素(カーボン)の膜であることから、DLCは非晶質炭素膜(amorphous carbon thin films:アモルファスカーボンフィルム)の総称であると説明する場合もあります。
このSP3とSP2の比率や、結晶構造に組み込まれる水素の比率、あるいは他の金属元素の有無や比率によって、様々な物性(材料としての特徴)を持つ薄膜を作ることが可能です。

DLCのバリエーション(組成と物性の相関)

炭素素材は100面相

天然もしくは人工的に作られる炭素(カーボン)材料は、その結合の状態や混合物の種類や比率によって、実に様々な性質を持つようになります。

SP3結合の炭素原子だけで成り立つ物質として良く知られているダイヤモンドは、天然の物質の中で最も硬い物質であり、他にも摩擦係数が低いことや、熱伝導率や絶縁性が高いこと、油との親和性に優れることや、耐腐食性に優れていることなど、多くの工業的価値をもっています。

一方、SP2結合の炭素原子だけで成り立つ物質は、鉛筆の芯の材料として使われるグラファイト(黒鉛)と呼ばれる物質です。 黒鉛は、耐熱性の高さや潤滑性の高さなどの工業的価値を持っています。

近年では、カーボンナノチューブやフラーレンなどもナノテク素材として注目を浴びていますが、これらも炭素でできた物質ですし、昔から馴染みのある炭、活性炭、カーボンファイバーなども含まれます。

このように、炭素は、その結像の構造や組成によって、様々な表情を見せ、様々な用途で使われています。

DLCもひとつではない

上記部分で説明したとおり、ダイヤモンドはSP3結合だけでできており、グラファイトはSP2だけでできているのですが、SP3結合とSP2結合が複雑に交じり合ってできている炭素素材をアモルファスカーボンといい、DLCもこれに含まれます。

アモルファスカーボンは、SP3の比率が多ければダイヤモンドに似た物性となり、SP2の比率が多ければグラファイトに似た物性となるので、その比率を調整することで、様々な特性をもつアモルファスカーボンを生成しています。

水素含有量の調整や、特殊元素の配合でバリエーションが増える

さらに水素原子の含有の有無と、含有量を調整することで物性を変えることが可能で、一般的に水素含有量が多くなると、よりポリマー様の(高分子的な)物性になるとされています。

その他、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、クローム(Cr)、タングステン(W)などの元素を含有させることで、さらなる物性のバリエーションを広げる方法も知られています。

DLCの組成の概念図

SP3/SP2/Hの比率を基にしたDLCの概念図として、C.FerraiとJ.Robertsonが提唱した3元相図があります。

SP3/SP2/Hの比率とDLCの特性の相関図
(図1)SP3/SP2/Hの比率とDLCの特性の相関図
A. C. Ferrari and J. Robertson,
“Interpretation of Raman spectra of disordered and amorphous carbon”,
PHYSICAL REVIEW B Vol.61(20) (2000) p.14095

この相関図において、一般的にDLCの領域を示したものが以下の図になります。

DLCの組成別分類
(図2)DLCの組成別分類

水素フリーDLC

水素を含まないDLCの領域にはSP3/SP2の比率でta-Cとa-Cがあり、一般的に水素フリーDLCと呼びます。現状では、より高硬度を求めるケースが多いため、ta-Cが主流となっています。

ta-Cの領域のDLCは、高硬度で耐熱性が高い傾向にあるほか、油中での摩擦係数低減効果に優れるという特長があり、自動車のエンジンオイル中での表面処理技術としては最も優れた効果を得られるとして高く評価されています。

水素含有DLC

水素を含有するDLCの領域では、ta-C:Hおよびa-C:Hがあります。
水素を含むDLCは 無潤滑環境下での摩擦係数低減効果が高いという特長があります。

SP3の比率を上げれば、硬度が高くなり、油中での摩擦係数低減効果も向上すると考えられています。SP3の比率の小さいa-C:Hの領域のDLCでは、樹脂などの高分子化合物の表面処理などに可能性を見出す研究が進められています。

【補足】
ta-C テトラへドラルアモルファスカーボン
a-C アモルファスカーボン
ta-C:H 水素化テトラへドラルアモルファスカーボン
a-C:H 水素化アモルファスカーボン

DLCの特徴

DLCの主な特性

DLCの基本的な物性を確認するために、ダイヤモンドとグラファイトと比べてみます。

化学の世界だけで考えれば、ダイヤモンドとグラファイトの中間的なものがDLCであるということになり、SP3/SP2の比率によって、ダイヤモンドに近い物性からグラファイトに近い物性まで、その性質を変化させることができるということになります。

ダイヤモンドとDLCと黒鉛(グラファイト)の物性の比較
(図1)ダイヤモンドとDLCと黒鉛(グラファイト)の物性の比較

DLCの要件

しかしながら、産業(工業)の観点から考えると、話は別です。
DLCが、DLCコーティングとして物質の表面を覆い、何らかの役割を果たすには、それなりの条件を満たすものでなければなりません。
以下に、DLCコーティングの素材として必要とされるDLCの要件をまとめてみました。

  1. 高硬度(耐摩耗性に優れる)
  2. 低摩擦係数(摺動性に優れる)
  3. 低相手攻撃性(摩擦時に相手材を摩耗・損傷させない)
  4. 化学的不活性(摩擦時に相手材との化学反応が起こりにくい)
  5. 耐食性(腐食性雰囲気中でも侵されない)

これらの要件を満たす組成を持つDLCが、DLCコーティングに用いられるDLCであり、その組成によって、より高硬度なDLCコーティングや樹脂などにもコーティングできるDLCなどが、開発されているということです。

DLCの産業的価値

DLCは環境に優しい技術

高硬度(耐摩耗性に優れる)

  • 部品の寿命延長 → 廃棄物の削減、省資源化
  • 再コーティングによる再生 → リサイクルの推進
  • 部品の軽量化 → 省電力化

低摩擦係数(摺動性に優れる)

  • ドライプロセスの実現 → 潤滑油の削減、洗浄処理の削減
  • 駆動エネルギーの削減 → 省電力化
  • 摩擦熱の抑制 → 工具や加工対象物の熱劣化の防止

低相手攻撃性

  • 部品の寿命延長 → 廃棄物の削減、省資源化
  • 粉塵の削減 → メンテナンス軽減、業務環境の改善

科学的不活性

  • 凝着・溶着の防止 → 生産性向上、工具・治具のメンテナンス軽減
  • 相手材の変質防止 → 仕上げ精度の向上

生体適合性

  • 金属の表面コート → アレルギー等の抑制
  • 器具の表面コート → 防汚、洗浄の省力化

耐食性

  • 腐食劣化の防止 → メンテナンスの負荷軽減、部品の寿命延長

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  • 環境に優しい

弊社では、様々な経験を素に、お客様の課題に応じたDLCコーティングを提案いたします。是非、ご相談ください。

DLCへの不安を解消

DLCは十分信頼できる技術です

初期のDLCにあった不安要素

DLCが化学的に不活性であることは、焼きつきや凝着を防ぐという意味では利点であると言えますが、一方で一部の基材との反応性が悪いということから、膜としての密着力や信頼性を疑問視する声がありました。 また、ダイヤモンドと同じように「硬いけど脆い」という点を心配する声もありました。

様々なノウハウで不安を払拭

ところが、現在では、成膜プロセスの工夫やドーピングする物質の選定、調整層(界面中間層)のコーディネートといった点において様々なノウハウが蓄積されてきており、膜の密着性、長期の安定性、靭性の向上などが解決され、十分信頼できるものとなっています。 今では、自動車部品の多くにDLCが採用され、自動車の製造にDLCが無くてはならない存在となっていることが、DLCの信頼性に対する進歩を物語っていると言えます。

様々な自動車用部品に活用される信頼性に優れたDLCコーティング
(図1)様々な自動車用部品に活用される信頼性に優れたDLCコーティング

評価分析技術で安心できる膜を提供

DLCの成膜技術とともに、信頼性の後ろ盾となっているのが、膜の評価分析技術です。
実際に成膜したDLCの耐久性や機能性を、摩耗試験や圧痕剥離試験、耐熱試験といった様々な要素で検証し、その結果を分析します。
もし、少しでも合格基準に満たない要素があれば、直ちに膜の組成やプロセスを改良し、新たな膜を開発して、再び検証を行います。
このような評価に関する「設備・技術・ノウハウ」を保有していることも、DLCを責任を持っておすすめするサプライヤーの務めだと考えています。

DLCの用途

台所から宇宙まで ~ 様々な分野で注目されるDLC

DLCは、様々な分野で注目されており、実用化されたり、研究が進められています。
今、取り組んでいる開発で、DLCを活用してみたい。というお考えがあれば、是非当社までご連絡ください。条件に合わせた膜種やプロセスをご提案し、試験成膜や評価等のご協力もさせていただきます。

自動車分野

  • エンジン部品(バルブリフタ、カムシャフト、給・排気バルブ、ピストンリング、トランスミッションギア、ピストンピン、シムなど)
  • ハイブリッドモーター部品
  • 駆動系部品(クラッチ、カップリング)
  • 燃料系品(プランジャー、輸送パイプ)
  • サスペンション関連部品
  • 内装部品、外装部品

工作機械分野

  • 切削工具(ドリル、エンドミル等)
  • 裁断刃、丸のこ
  • ハサミ
  • バイト
  • リーマー

OA機器分野・機械部品分野

  • 摺動部品(ローラーシャフト、クランク、ジョイント、スライダー、軸受け)
  • 動力伝達部品(ギア、プーリー)
  • ロボット部品(関節、アーム、センサー保護カバー)
  • 操作用部品(ボタン、スイッチ、タッチパネル)
  • ケース、筐体、防傷・防汚シールド
  • ハードディスク

金型分野

  • プラスチック成形用金型
  • ガラスレンズ成形用金型
  • ゴム成形用金型
  • アルミ・アルミ合金・Mg合金用プレス金型、ダイキャスト金型
  • 冷間鍛造金型
  • 容器加工用金型

音響機器分野

  • スピーカー部品

光学分野

  • ガラスレンズ
  • 赤外レンズ
  • センサー保護カバー
  • レンズ保護カバー

精密機械分野

  • 密閉用ガスケット
  • ゴムシーリング
  • マイクロギア、シャフト、軸受

家庭設備、建築

  • 水道蛇口混合栓
  • ドアヒンジ

各種用途に関する詳しい内容は、弊社営業窓口までお問い合わせ下さい。
様々な経験を素に、お客様の課題に応じたDLCコーティングをご提案させていただきますので、是非、ご相談ください。

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